山響アマデウスコア 特別演奏会　ドイツ・バロック合唱音楽の源流を訪ねて

シュッツ「音楽による葬送」
木下牧子「おんがく」「星の話し」「春に」「よかったなあ」
バッハ カンタータ第71番「神は我が王」

2025年9月23日(火・祝)　15:00、山形テルサ3Fアブローズ。

　7月半ば頃、たまたまFaceBookで山響アマデウスコアの記事を見かけたら、シュッツの「音楽による葬送」を歌われるという。
　この曲は2017年に仙台宗教音楽合唱団(宗音)で演奏した際、プログラムの解説を私が執筆した。しかし対訳は私のものではなかった。私が対訳なるものを作成するようになったのはその直後くらいからで、それ以来、過去に歌った曲の自力対訳にも着手していたのだが、「音楽による葬送」はまだやっていなかった。
　なのでこの曲の自力対訳を作成してみたくなり、一週間くらい頑張ったら完成できた。解説も宗音のプログラムに書いたものを少し改訂。さらに同日演奏されるバッハのカンタータ第71番「神は我が王」は、これまた2024年に宗音で演奏したカンタータ第4番と同じくミュールハウゼン時代の曲なので、その時の宗音のプログラムに書いた解説を第71番用に書き直し、対訳も完成させた。
　そこでアマデウスコアの指揮者渡辺修身先生にLINEで「こんなのできましたけど」とお送りしたら、配布用プログラムに採用され招待券をいただけた、という次第である。

　演奏会プログラム前半が、佐々木正利指揮でのシュッツ「音楽による葬送」。
　この曲は3部構成だが、その第1部はソリスト重唱と合唱が交互にアタッカで続く。今回の演奏では、ソリストは全員合唱団員から何と計25人が入れ替わり立ち替わり登場、約70名の合唱団の3分の1がソロを歌われた。そんなことが可能だということが、この団の特異な点である。ただそれだけに、団全体に緊張感がただよっていたようにも感じられた。
　第1部が終わると、第2部の二重合唱のためにSATBがそれぞれ左右に分かれる。この第2部が大変素晴らしかった。ソロの重圧から解放されたのか、合唱団としてのマスのパワーが炸裂して力強いドッペルコーラスになっていた。その後、第3部はまた通常のフォーメーションに戻り、合唱とソリスト3人による重唱との掛け合いとなる。全曲を通してオルガン伴奏のみのシンプルなシュッツの合唱曲の骨太さがよく表現されていたと思う。

　休憩後、後半は渡辺修身指揮による木下牧子作曲の合唱曲4曲。
　修身先生の指揮は、4月に私たちがヨハネ受難曲第2稿を演奏した際、直前リハで代振りされたのを見て、「さすがドイツの歌劇場で合唱指揮者アシスタントをつとめられた方らしく、不分明な点が全く無い指揮ぶりだなぁ」と感じ入った。今回はその指揮を本番の演奏会で見ることができたのも私にとって大収穫だった。繊細さと流麗さを兼ね備えた指揮のもと、日本語の美しい歌が聴けた。

　ここでいったん団は退場したが、休憩無しで次は再び佐々木正利指揮でバッハのカンタータ第71番「神は我が王」。
　この曲は本来はトランペットなど管楽器もふんだんに使ったオーケストラ伴奏なのだが、今回はオルガンとピアノによる伴奏である。「オルガンとピアノって合うのか？」と少し疑っていたのだが、実際聴いてみると、ピアノが登場するとそれだけで華やかになる。ピアノは近代楽器なんだなぁ、と改めて認識した。そして何と言っても合唱の第一声「Gott, Gott, Gott ist mein König!」の華々しさに圧倒された。もちろんこの曲のソロも全部団員が担当された。

　アンコールは2曲。
　一つは定番。バッハのカンタータ第147番のコラール。そしてもう一つはアメリカの作曲家マーク・ヘイズの「As the deer」。これは「Sicut cervus（谷川の水を求める鹿のように）」を英語の詞にしたものだが、今回はそれをさらに佐々木正利訳の日本語歌詞で歌われ、これが絶品だった。来年4月の宗音演奏会に向けてこの曲を含むヘイズ作品を練習中で、英語の歌詞に苦戦しているので、なおさら「日本語で歌うとこんなに滑らかで良い曲なんだ」と感じた。
　その後、ホールのホワイエでの打ち上げにもご招待いただき、団員の方々といろいろお話しできた。

　ところでこの山響アマデウスコアという合唱団は、アマチュア合唱団としてはかなり変わった団体である。
　山形交響楽団が、2004年に常任指揮者となった飯森範親のもとで2007年から2015年までかけて行った「アマデウスの旅」（モーツァルト交響曲全曲演奏会）という企画で、交響曲とともにミサ曲などを演奏するために、2008年に附属合唱団として設立されたのが、この山響アマデウスコアである。以来、この合唱団は、飯森氏と合唱音楽監督佐々木正利との協働作業で上記の企画以外にも、ベートーヴェン第9やオペラのバックコーラスなど様々な演奏活動をオケとともに行ってきた。だからアマデウスコアに入団するには、こうしたオケからの要請に応えられる最低限の能力が必要なので、オーディションを受けなければならない。
　ところが、企画「アマデウスの旅」が終了すると、山形交響楽団はこの合唱団を附属合唱団として抱え続けるのを止めたため、2015年にアマデウスコアはオケから独立した団体にならざるを得なくなった。
　レセプションで代表の方のお話によれば、附属合唱団時代の役員は各パートリーダーしかいなかったという。それはそうだ。オケが全部企画をしてくれていたわけだから。よって団としての組織を整えるところからの再出発となったのである。
　しかし、独立団体となったからといってオケとの関係が無くなったわけではない。それまで通り、オケの活動を支える合唱団として第9もオペラもやり続けながら、独自の活動も行う。だからレベルを維持するため、入団には引き続きオーディション（面接と歌唱）を課している。
→山形交響楽団WebSite内、山響アマデウスコアのホームページ

　私が所属する仙台宗教音楽合唱団と山響アマデウスコアは、ともに佐々木正利先生の指導を受けており、その初共演は2012年7月、山形交響楽団・仙台フィル合同演奏会でのマーラー「復活」であった。
　アマデウスコアが独立団体となった後には、2016年3月にシェレンベルガー指揮岡山フィルとの「ドイツ・レクイエム」、同10月に山田和樹指揮仙台フィルとの「カルミナ・ブラーナ」、2017年12月にも久石譲指揮仙台フィルとの「カルミナ・ブラーナ」を共演。
　そしてそれに続く企画が、盛岡バッハ・カンタータフェライン、アマデウスコア、宗音3団体共演での2020年5月「マタイ受難曲」だった。しかしそれはCovid-19流行のせいでお流れになってしまった。

　今回の演奏会で、前半のシュッツの前のレクチャー冒頭、佐々木先生のスピーチの中で
「この合唱団は普段は山形交響楽団とともにオペラや第9を歌っている。なのでバッハもやることは無いし、ましてやシュッツなんて全くなじみがない。しかもスケジュールもオケに合わせながら独自の演奏会を開催するにあたり、他の合唱団のように1年じっくり練習するということはできない」
という話があった。レセプションで聞いた話では、今回の演奏会のための練習は5月後半からだったという。修身先生も「木下作品の練習時間はホントに少なかった」と言っていた。
　オーケストラからの様々なタスク要請にこたえながら独自の活動をする、というのは大変なことだ。そのためアマデウスコア単体での演奏会は、2017年が第1回、コロナ明けの2023年に第2回（オシュトリーガ版モツレク、聞きたかった）、そして独立団体となって10年目の今回がようやく第3回なのである。

　ただ一方で、オケとの共演機会が定期的にあるというのは魅力でもあるのだろう。
　宗音・フェラインとともにマタイの練習をしていた時から5年以上たって、アマデウスコアには、見覚えの無い若いメンバーが増えていたようだ。
　しかもこの日のレセプションで、技術系の役員たちが口々に話していたのは、「今日の演奏会のテーマはバトンタッチだった」ということだった。シュッツ作品で20人以上のソリストを立てたのも、若手に経験を積ませるという意図があったようだ。
　こうしたバトンタッチをきちんとしていかないと、団としてのサステナビリティが保てない。宗音は、「若手を育てる」どころか「若手に入団してもらえない」という問題に直面している。このことは、日本全国のありとあらゆる組織に共通する問題（高齢化社会）なわけだが、こうした面でも一歩進んでいるアマデウスコアを大変うらやましく思った。

　もちろんアマデウスコアにも、先に挙げた「団独自の演奏活動のためのスケジューリング」という重要な課題があるだろう。
　宗音では、1年かけて演奏会のための練習をしているわけだが、そのうち半年ぐらいはほとんど進歩が見られないまま経過してしまう。演奏会3ヶ月前ぐらいからようやく「このままではヤバいのでは」という危機感から少しずつ何とか形が見えてくる。だったら最初から練習は数ヶ月でいいじゃないか、というとそれは違う。やはり「うまく歌えないなぁ」という思いを抱きながらの1年間、というその時間に、何らかの意味があると私は思う。
　アマデウスコアの皆さんには、「うまく歌えない“怨念”が楽譜の1ページ1ページに染みつく時間」を少しでも長く持てるように、今後もどうにかスケジュールを上手く立てて、次なる演奏会に向かって欲しいと思う。